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「あぁ、言い忘れていましたが羽衣さんは隊士の皆さんが狐だの雪女だのとはしゃいでいた
“例”の女性なんですよぉ」
うふふ……と声を漏らす沖田の顔は作戦通りだと言わんばかりに黒い笑みがとめどなく溢れている
案の定、まんまとそれにはめられた土方の眉間は、短い間に面白い程に激しく狭まると、
見る見るうちに彼の周囲の空気が質を変えてゆく
イヤイヤ……今こいつ、なんて言いやがった?
余りに驚き過ぎて状況が把握出来ないながらも、そこは土方
心中で自問するよりも早く、彼の口から殺気を多様に含んだ言葉がクウをきった
「―――殺しの……あれか?」
普段以上に低音のそれに沖田は場違いなほど明るい軽い返事を返すと、満面の笑みを咲かせて真っ直ぐ土方を見つめていて
また彼もそれに返すかのように不気味な程細く笑った
つい先程まで、自分と監察等を悩ませていた女が自ら火の中に飛び込んできた
あの有能な山崎をも町中しらみ潰しに捜させても見付かりやしなかった女だ……
叩けば、叩くほど埃が出るに違いねぇと、土方はほくそ笑む
そして相まって、自然と羽衣に向ける土方の視線は鋼を尖らせたように鋭くなるのを敏感に感じ取った彼女も、嫌な予感と共に顔を上げた。
必然的にかち合う視線がまるでこの先を暗示するかのように妖しく渦巻いてみえ
土方の深く、氷の様な瞳には
力強い意識と決意を感じて羽衣は無意識に身震いを感じ動くどころか、目を反らすことすら叶わずに瞬時に固まってしまう
なっ……なんやの?こん人っ
羽衣自身、自惚れでも何も無く
今までかなりの場数をこなしてきた
無論幾度となく、自分より強い相手とも……分が悪い者とも戦い、今こうして己は生きている
だがそれでも、こういう目をした者には今まで出会った事が無かった
また、視線だけで恐怖を感じた事も今までに一度だって無かったのに
正直、自分自信が動揺している事に一番動揺している
うろたえる彼女
それを知ってか知らずか張り詰めた雰囲気を一刀したのは
「羽衣さん?紹介が遅れました
こちら目の前にいる方がここ新選組の副長、土方歳三さんです!!」
またしても場違いな程澄んだ沖田の声だった
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