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軽やかな口調で沖田が指し示した相手
その名を耳にして一瞬、目眩がした。
少なくとも仕事柄、兼ねてから宜しくない『新選組の噂』は
聞かずとも、何処からともなく自然と流れつく
そしてその中でも強烈なのが、仲間であろうがなんであろうが……
自分の意に沿わぬ者は排除し尽すと云う土方歳三
人の心を喰われた悪鬼と、もっぱらの噂だった
そんな相手が、その鬼が……
今自分と、拳五つも間を空けず向かい合っている
いや……“新選組”との表札を目にした瞬間から、彼に会うのは必至だった筈なのに……
改めて羽衣は、なんて処に来てしまったのだと心底後悔していた
どうも“この眼”は居心地が悪い
体の四肢全てを絡め取り、
胸の内さへも見透かすかのようで息苦しく、寒気さえ覚える
だだそんな土方の目線から逃れたくて羽衣は、眉間を寄せ視線を自らの膝の先、少し色褪せた畳へと移した
それでも感じる土方の威圧感は少しでもおかしな動きをしたら命は無いと、無言の警戒がビシビシと彼女の体をいたぶった
そしてそんな傍ら、ただ一人、実に楽しそうに顔を緩めるは沖田
羽衣との茶屋での再開と今までの経緯を、事細かに土方へと報告し
そして、珍しく自分の話しに黙って耳を傾ける土方の様子が更なる拍車となり、
沖田はまるで幼い子供が、自らの冒険話しを聞かせているかのように終始目を輝かせた
一通り、話しを聞き終えた土方は呆れるより早く、なんとも総司らしい見解だと苦笑いを浮かべる
血に濡れた現場すらも、まるで遊び場であるかのように至極、楽しんでしまえる沖田。
そんな彼がこれだけの執着心を示すなど極めて稀な事
土方は、その好奇心を隠しもせずに目を輝かせ、興奮気味に自分を説き伏せようと奮起する沖田を一瞥した
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