春風にのって

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桜の花が咲き乱れる4月9日。 明香は、私立・桜花学園高等学校の入学の日を迎えた。 桜花学園までは、最寄りの駅から電車で20分。 家の近くに公立の高校もあるけれど、新しい出会いのため、この学校に通うことに決めたのだ。 表向きの志望理由は、なんといっても個人を尊重した授業方針と、幅広い選択授業。 三年間という限られた期間でここでしかできないことにもどんどん挑戦してみたいというのも、あながち嘘ではない。 「明香!何時まで寝てるの!早く起きて、朝ご飯食べちゃいなさい!」 明香は昨日までと何ら変わりなく、母・麻代の怒りの声で目覚めることになった。 高校生になるからといって、ある日突然一人で起きられるようになるわけもなく、夢の世界から連れ戻されるのだ。 「あなた今日、入学式でしょ。遅れないように行きなさいよ。母さん忙しいんたから」 フラフラとリビングに下りて行き、時計を見る。 8時38分。 父・啓は仕事に行ってしまったようだ。 「はちじさんじゅうはっぷん…。えぇ~っ!?どうして起こしてくれなかったの!?8時に起きるはずだったのに38分も寝過ごしちゃったじゃない!」 「あら、目覚まし時計があるじゃないの。それに入学式は10時からでしょ?充分に間に合うわよ」 「だって目覚まし時計、電池なくなっちゃって夜中の3時で止まってたんだもん」 「ほらほら、ごちゃごちゃ言ってないで早く支度しなさい」 洗濯物を干し終えた雅代はさっさと自分の部屋へ行ってしまった。 仕事の準備に行ったのだろう。 「宇宙、わたしの分もパン焼いといて」 「一枚百円」 明香の弟の宇宙は中学二年生。 彼女が何か頼みごとをするたびに小遣いをせびるのである。 「なによそれ、わたしだってそんなにお金あるわけじゃないんだからね」 宇宙に焼いてもらった食パンをインスタントコーヒーで流し込み、高校へ向かう。 9時40分。 なんとか無事学校には着いたものの、新入生のための受付の場所がわからない。 あちこち歩き回ってはみるものの、自分がどこにいるのかさえわからない。 誰かに聞こうにも、すでに新入生は受付を済ませ、教室にでも行ってしまったのか、校庭はシンと静まり返っていた。 このままではヤバい。
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