偶然の偶然

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恭平が明香に紹介したかったという人物こそ、紛れもない、あの朝の非常識な上級生だったのだ。 (恭平先輩がわたしに紹介したい人ってこの人…?あり得ないよ…) 「とうしたの明香?もしかしてガラにもなく緊張しちゃってるのかな?」 未佑が無言でカタマってしまっている明香を覗き込む。 「この子、杉田明香っていって、あたしの親友なの。普段はもっと明るくて、天然なんだけど」 「へーっ。明香ちゃん天然なんだ」 ウエイターがやって来て恭平と直樹のオーダーを取り、去って行った。 「あ、あの、今朝はありがとうございました」 「あぁ、入学式、間に合った?このガッコ広いからな」 広いなんてもんじゃない。 同じような建物が幾つもあるのだ。 案内人が居ないのが不思議なくらいだ。 ここまでは少し言い過ぎだが、なにしろここは有名なマンモス校。 とても広いのだ。 「明香ちゃん、このあと少し時間いいかな?桐島はこのあと部活で未佑は塾で帰っちゃうんだけど」 「せっかくなんだから明香、ゆっくりしていきなよ」 入学式のあと、朝の事件を話さないままだったので、事情を知らない未佑はいざ知らず。 一時間後には桐島兄妹は店を後にした。 断る理由も見つからぬまま明香は直樹と二人きりに…。 初対面ではないものの、お互いの第一印象は最悪だ。 「朝は悪かったな。怒らせるつもりはなかったんだけど。俺、常識ないヤツ嫌いだから」 「はぁ…、そうなんですか」 「緊張してる?ムリもねぇか。明香ちゃんマジメそうだから俺みたいなヤツと関わらなそうだし」 直樹の左手にはいつの間にか煙草が煙を上げていた。 高校生が煙草を吸っているのだから、学校にバレたら謹慎は免れないだろう。 ここは学校からもそう遠くはないから先生たちが見回りに来るかもしれないのだ。 彼は慣れた手つきで煙草を吹かしている。 先程から店員たちがこちらを見ながら何やらこそこそ話をしているようだ。 学校帰りだから、もちろん制服のまま。 店員がこっそり学校に連絡するおそれもある。 彼は謹慎を恐れてはいないのだろうか…。 そんなことを考えているうちに、明香は無意識に煙草を持つ左手を見つめていた。 「ごめん。煙草まずかった?」
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