🍀始まりの矢🍀

『人生如夢』（奈落＋人見蔭刀）

辿り着いたのはあの小高い丘の上だった。
「奈落…これは…」
「あなたが望んだ外の世界です。」
視界に広がる一面の景色。
生憎夜なので昼間のようにはっきりと見えないが…
今宵は満月、
月の光に照らされた情景が美しく綺麗で蔭刀の胸は高鳴った。
「そうか…今は春なのだな…」
時折吹く風に舞い上がる桜の花びら。
「あぁ…美しいな…」
届くわけでもないのにゆっくりと手を伸ばす。
「本当に……」
一筋の涙が頬を伝う。
「奈落…」
「何だ？」
「私は…ずっと独りだと…思っていた…
城で暮らしていても…
家臣達に…どんなに…敬られても…
この孤独さだけは…消せなかっ…た…
１人の…男…として…接してくれたの…は…
そなただけ…だった……」
ーーー！！！…そうか、そうだったのかーーー
蔭刀の言葉でようやく奈落はうやむやになっていたことが解かった。
ーーーこの男は…わしと似ていたのかーーー
環境は大分違うが奈落も５０年間独りで過ごしてきた。
別にそれで淋しいとか悲しいことはないが…
纏う孤独の波長が蔭刀と合っていたから…
奈落は蔭刀を放っておけず、殺せなかったのだろう。
「あり…が…と…う……
な…ら……く………」

フッ・・

その言葉を最後に蔭刀は意識命諸共手放した…。
「逝ってしまったか…」
重みが増した身体で悟った奈落は俯き呟いた。
こうなることは始めからわかっていたのに…