魔法のようなホントの噺

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珈琲の薫る机の上、ページをめくる手がとまります。 そろそろ冷めた筈のそれは、敏感な私の舌に焼くように触れました。 軽い舌打ちと共にカップをソーサーに戻す途中、眼前の視線と衝突。   「師匠、猫舌」   「黙りやがって頂けると光栄です」   馴れ合う気皆無のやりとりが行われる、ここは来井ケ峰の屋敷。その一室。   「それで、進みましたか?」   少し身を乗り出して、私を師匠と呼称した少年のルーズリーフを覗きます。   「……」   几帳面な字で、ラーメン三五○円と書いてありました。軽く溜め息を吐き、語り掛けます。   「要約が面倒臭いのは重々承知ですが、これはテスト範囲ですよ」   少年は不貞腐れたように、反論を口にします。   「だって、魔法使いって実践学習とか薬草とか使った実験とかやらないの? 小テストとか、塾みたいだよ。絶対変だよ此処!」   少年の言葉は、一理どころか真理かもしれません。 実力を見込まれて来井ケ峰に招き入れられた人間は、大体においてこう考えます。 何も変わらない、退屈な日常からの脱出。   そんな甘い話は無いと教える為か、それとも本当に「人生日々勉強」か、どちらにせよ退屈な作業によって理想を崩壊させられます。私も体験しました。   とはいえ、この世界も義理と人情。そんなシステムを踏襲しているのでございます。 入門ランク用試験内容が毎回同じという杜撰な体制の上に確立された、代々伝わる方法。 試験問題を教えるという事実を曲げる、幼稚な言い訳。   「今から私は、貴方の試験範囲の復習をします。独り言なので、どうかお気になさらず」   斜め上に視線を背け腕を組みながら言うのだと、変な伝統が付随されていたりもします。
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