魔法のようなホントの噺

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まだ発展途上の、私独自の機構と術式に思いを馳せ、足を止めたのはラーメン屋。 匂いによって空腹を錯覚するというのは、本当ですね。 つまり、飢えてきました。   ――。   「へいおまち!」   アフロな頭髪の店主が作った、魚介ダシのラーメン。 ストレートの麺に絡まる数本のちぢれ毛を取り除き、スープを一口。   確かに美味しい。しかし、この異物をどうにかして頂きたいと願うばかりです。   「――よう、名無しのなっちゃん」   不意に真横の気配が膨張し、私に存在を嫌というほど察知させます。単に何の術式もなく魔力を解放させてみせただけでしょうが。   「七篠菜波に訂正をお願いします」   「音速で却下、だ」   どこまでも失礼な、隣の男は同期で入門した坂西信男。最初に会った時に「坂に忍ぶ男」とバカにしたのを、まだ根に持っているようでした。   「しかし、まあ…… お互いにあだ名で呼べるのも、もう終わりだな。あ、俺塩チャーシューね」   感慨深げに目を細める彼の横顔は、どこか遠い。そんな印象を受けます。   「反逆試験ですか」   「ああ」   正式名称は来井ケ峰一門到達認定試験。 内容が当主との手合せという、無力感いっぱいな試験です。 唯一の注意事項が「全力で」の三文字なあたり、反逆も糞も無いような気がしますね。 当主が「そこそこ」と認めた者が合格し、来井ケ峰を名乗ることが許されます。   そこで、彼が言うには――   「もう、誰にもあだ名で呼ばせない。 そうだよな、菜波」
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