【鳥道】(忍たま/仙鉢)

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鳥道。   翔破する鳥に負けぬ早さで立花仙蔵は走っていた。   艶のある長い髪は風で揺られ、同時に木の葉が空を舞った。     「(さて、もうすぐだな)」     この鳥道さえ抜ければ、忍術学園まで後少し。   そう考えると安堵の息が漏れ、腕の中にある包みをくっと抱き締めた。   任務の為行った地方の土産。   胡蝶ような彼も、これには満足するだろう。   この包みを開けた時の相手の反応を思い浮かべたのか仙蔵は片笑みを浮かべ足を早めた。   暫く走り、鳥道を抜けようとしたその時、不意にポツリ、と仙蔵の手の平に水滴が当たった。   立ち止まり空を見上げれば空は青天。   しかしそれでも仙蔵に当たる水滴は止まることはなかった。     「…嫁入りか…」     途切れ途切れな雨も時が経つに連れ激しくなっていった。   仙蔵は軽く舌打ちをすると荷物を腹に抱え、再び走り出した。   太陽が輝いているのに雨とは、まるで狐の嫁入りではないか。   いや、そんなことはどうだっていい。   問題は土産が濡れてしまうと言う事。   それだけはあってはならないと己の体で庇う様に仙蔵は走った。   と、その時。     「お帰りなさい」     突然頭上にさされた傘に、仙蔵は再び立ち止まった。   視線を傘を差し出された方に向ければ、ニコリと笑い、胡蝶が立っていた。     「むかえに来ました。雨に降られるなんて、運がないですね」   「三郎…」     夏場といえど、風邪引きますよ。ああ、でも夏風邪は馬鹿がひくものですから、貴方には関係なかったですね。   なんて冗談を言いながら、胡蝶、三郎は仙蔵の隣りに足を並べた。     「帰りましょうか。おばちゃんが温いものを用意してまってるそうです」     そう言うと三郎は仙蔵の手をそっと握り歩き始めた。     「三郎、この雨の理由がわかった。」   「狐の嫁入りの事ですか?」    「違うな。お前が私をむかえに来るなんて珍しいことするからだ」   「私を怒らせたいんですか」     口喧嘩をしながら、仙蔵はお土産を渡すタイミングを計らっていた。       おわり
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