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晴れれば満天の星が輝くはずの七夕の夜空は、雨雲に覆われてしまっていた。
昼に降っていた雨は止んだものの、やはり星が見えないのは悲しいもの。
いい事といえば、涼しい夜風が吹く、という事だけだろう。
何とか見えないものだろうか、と目を凝らし見てみたがやはり星は見えない。
そんな夜空を見上げながら伊作は溜め息をつき、背後に忍び寄る男に残念そうに話しかけた。
「星…見えないね、文次郎」
「そうだな」
さほど興味なさそうに、文次郎は返事をすると同じように空を見上げた。
そんな文次郎に、伊作は口を尖らせた。
「なんだよ、文次郎は悲しくないの?
織姫と彦星は一年に一度出会える日に会えなくて、しかも僕たちが天の川を一緒に見られるのはきっと今年で最後で、来年は毎日会えるわけじゃな」
「伊作」
伊作の声に、隣りに並んだ文次郎に声が重なった。
「なに?」
「星をやる」
「星?」
文次郎の手を見れば、両手を合わせ小さな間を作っていた。
そこからは確かに光が漏れている。
「ちゃんと見ていろよ。お前どん臭いからな」
「そこまで言う事ないだろう」
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