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夏虫の光を、うっとりと眺める伊作に文次郎は少し頬を赤く染める。
そんな文次郎に気がつかない伊作はそのまま続ける。
「だけど群から離しちゃ可哀相な気がする。ねぇ、文次郎」
「だな。今から川原に行って返すか」
「うん!」
最初文次郎がしていたように伊作はある程度の空間を保ちながら両手を合わせた。
「それと伊作」
「?なに?」
「七夕が雨や曇った場合、カササギが橋になってくれるらしいぞ」
「そうなの?なら今ごろ会えてるかな!」
先ほど見上げた時の残念そうな表情と一転し、満面の笑みを浮かべながら伊作は空を見上げた。
「一年に一度……かぁ。今すごい幸せなんだろうなぁ」
織姫と彦星が一年に一度会え、涙ながらに喜びあっている姿を思い浮かべたのか、伊作は目を細め、満足そうに笑んだ。
「………」
そんな伊作の手を文次郎は手を重ねた。
「もんじ…ろう?」
「俺はな、」
一息ついて文次郎は意を決して話し出した。
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