24人が本棚に入れています
本棚に追加
「名前は?」
「敦志です」
「ちゃうちゃう、長い方や」
―――何モンだ?
ここで、それを聞かれたことはない。
「名乗る時は自分からお願いします」
「うわ、そう来るか」
ちょこっとおどけた後に、姿勢を正して男は言った。
「―――元谷、昌広や」
名字、だ………
「壱ノ瀬敦志」
まさかここで、それを口にすることがあるとは思わなかった。
「ま、聞いたとこで、ここじゃ何の意味もないんやけど」
「元谷殿は、何者なんですか?」
「阿呆ォ。ここじゃあ殿なんて誰も使わん。マサや呼びぃ」
ついつい、癖が出る。
そうだよな、うん。
そう一人ごちながら、マサの方を見やった。
「わいは武家のもんやった。まあ、察しとるたあ思うが」
こくりと頷く敦志を見て、彼も一つ頷く。
「お前の場合は何や切羽詰まってこの場所に来とるんや思う。お前がわしを知らんくとも、わしゃお前がここに来た時から知っとる」
とは言えそりゃあ、ほんの数月前のことだがな、と乾いた笑いを浮かべるマサ。
「わしゃ武家の次男やった」
.
最初のコメントを投稿しよう!