24人が本棚に入れています
本棚に追加
「何でもらえんかったんだ?」
「非人にやる金はないって。」
「……だよな。」
家屋、というほど大層なものでもないが、とりあえず人が住むのに不自由はしない住処。
敦志がそこの土間に座り込んでいると、奥から永斗が新しい着物を持ってくる。
これまた着物、というほど大層なものでなく、お粗末な布には違いなかったが。
「これしかない?」
「それでも手一杯なんだよ。お前が稼いでこないから。」
「それ言う?オレだってまだ慣れないしさ。」
敦志が身につけているのは、血がこびりついた布。
それをふと見やり、永斗は鼻をつまむ。
「それ、俺洗わねえからな。」
「これ自分で洗えって?」
「当たり前だろ。てかなんで毎回そんなに汚してくんだよ。」
「そんなの、あの同心が下手くそなんだろ!」
同心、とは当番同心の事であり、死罪となった者の首を打つ役のものであり、非人である彼はその罪人を押さえておくのも仕事の一つであった。
ムキになって言い返す敦志に向かって、口笛と一緒にぽつりと言葉を投げつける。
「さすが武士は違うねえ。」
「……………。」
齢のほどは15辺りか。
同じ家に住み、同じ身分でありながらも。
同じように士農工商から外れた、賤民であっても。
彼らの境遇はまったく違うものであった。
.
最初のコメントを投稿しよう!