暗転、そして急転

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      慌てて振り返ると、店員がにこやかに龍野の手元を覗き込んでいた。       黒い髪を短く切っている、メガネをかけた知的な男だった。店員用であるだろう緑色のエプロンが似合っている。       迷いの無さそうな強い瞳に射抜かれて、龍野は思わずたじろいだ。       「い、いえ、あの……」       「そちら、七万八千円になりますが……」      「な……ななまっ!?」       男の告げたとんでもない金額は、龍野の動揺に拍車をかけ、思わずビンを落としそうになった。       諭吉が七人……強烈なインパクトを感じながら、慌ててビンを台に戻した。       「い、いりません!」       龍野は早口でそう言って、店員を見ずに逃げるようにしてその場を離れた。       一気に店の隅まで来て、必死に肩で呼吸する。 周囲から見たら不審者そのものだが、関わりあいになりたくないのか何も言わない。      
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