暗転、そして急転

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      七万円とはものすごい価格を突きつけられたものだと龍野は息切れの中思う。       別に買うつもりは無かったが、七万円は高すぎるだろうと舌を打つ。           不意に悪い考えが頭をもたげた。                     盗んでしまおうか。                    思った瞬間、ずっと強ばっていた体が緩んだ気がした。素晴らしい考えだと思った。     だってそれは母親を裏切る行為に違いないから。     龍野はやっと息を整えると、また先程のように店を歩き回り始める。   それは商品を探しに来た人間の姿そのもので、さっきから不審そうに龍野を見ていた女性も興味を失ったのかまた退屈そうに帽子を吟味しはじめた。         盗めるだろうか。真剣に考える。行為に対する躊躇いは起きない。 ただ、バレたら終わりだということだけを脳の芯に焼き付ける。   その時のリスクは高い。 まず母親に家から追い出されるだろう。 龍野の母は人一倍モラルを重視する女だ。縁を切られるに違いない。   また、世間の目も冷ややかになるはずだ。元々水商売の母親ということで近所から暖かい目で見られてはいなかったのだ。 益々生活しにくくなることはすぐに予想できた。    
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