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ゾクリ、と熱いところから急に冷たいところに放り込まれたように体が震えた。
ポケットの中の勲章が、ゆっくりと鉄塊のような重さを持った気がした。
振り払って逃走したい気持ちを抑えて振り返る。
「……ちょっと、店まで来てもらいます。いいですね?」
眼鏡の奥の瞳を鋭くさせた男が、小さく口を開いてそう言った。
手首に手の型が残り一生消えないのではと思うくらい、店員は強く龍野を引いて歩いた。すれ違う人が何事かという目で見ているが、気にもとめない。
龍野はずっと顔を伏せてされるがままにしていた。
店の前までたどり着いた。
死にたくなるくらい長い時間だったように思う。
これから先、自分がどうなるのかなんて考えたくもなかった。
「ちょっとすいません」
母親が子供に語りかけるような穏やかな声が、聞こえた。
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