暗転、そして急転

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      そう口に出した瞬間、自分が酷く卑小な生き物に思えてきて、泣き出したくなった。       確かに、身の丈に合わないレベルの高校ではあった。だがその身長差を埋めるべく、答えを書く手がちぎれてしまうのではないかと思うくらいの努力をした。勉強に関する全ての単語を頭に叩き込んだ。 それでも及ばなかった。       ふと視線を感じて顔を上げると、遠くの幼い眼差しとぶつかった。髪を頭の上の方で結った、五歳くらいの愛らしい幼女だった。     どこか心配そうな顔をして龍野を見ていた。       それでやっと、今自分がなんとも陰鬱な表情をしていることに気付いた。       見るな。     口の中でそう呻いて立ち上がった。少女から目を背けて、人混みに逃げ込んだ。       体を小さくしながら、人と人との間をすり抜ける。       少女の困ったような顔が頭から離れない。綺麗な目が無邪気に自分を責め立てている気がしたのだ。 現実から目を背け家にも帰らず、用もないのにショッピングモールでぼんやりしている愚かな自分を。 仕方ないだろう、と混乱した頭で言い返す。 仕方がないのだ、あんなに必死で勉強してきたのに、今日一日でそれがすべて無に還ったのだから。   あの少女にはわからない、絶対に。     
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