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どうすればいいんだ、と胸をかきむしりたくなる衝動を抑えながら俯いて早足で歩く。
気分が悪い。視界が歪む。まるで同じところをグルグルと回っているような気さえしてきた。
そこでやっと、龍野は気が付いた。
自分は今まさに泣こうとしていることを。
理解した瞬間何かにつまづき、龍野は膝から地面に崩れた。
派手な転倒ではなかったのでそれほど周囲の関心を引いたわけではないが、
さすがにすぐ側にいた人の目は誤魔化せない。
頭上から呆れた笑い声が聞こえて、羞恥に顔が染まっていく。
我慢していた涙がこぼれそうになった。
「す、すいません。大丈夫ですか?」
崩れたまま動かない龍野を労るような、それでいてすまなさそうな声が聞こえ、思わず目線を上げた。
心底心配そうに眉を下げた青年の顔が視界いっぱいに現れる。短く切り上げた髪はスポーツが得意そうなイメージを喚起させた。大人びた顔の輪郭が年上であることを教えてきた。
そこで龍野は、自分がつまづいたのは青年の足であることを知った。
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