CASE 1

4/19
前へ
/94ページ
次へ
  結菜は描いた絵の… 自分の顔の部分だけを、真っ黒に塗りつぶしていたのだ。   隙間もないほど黒く、黒く、深い闇の如く黒く。     私も一瞬戸惑ったが「はいはい、静かにー」と他の子供達を制し、結菜の横にしゃがみ込んで聞いてみた。 「どうしたのかな?間違えちゃった?」   結菜は自分の描いた自分の黒い顔を見つめたまま、答えもせず、頷きもせぬままにいた。     どうしたものか。 「もう一度描き直す?」   結菜はまた微動だにせず、黒い自分の顔を見つめている。泣いてはいない。   他の子も結菜を気にしたのか「どうしたの?」「結菜ちゃん大丈夫?」と声をかける。     すると突然、結菜はその絵を持って立ち上がり、みんながいる部屋とは別の、奥の寝る部屋の隅へ行き、小さくしゃがんで…ただ絵だけを見つめている。   やはり泣いている様子はない。  
/94ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2187人が本棚に入れています
本棚に追加