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初めて街の外に出たとき、俺は世界の広さを痛感した。
空が暗い。
雨が降ってきた。
まったく感動しなかった……と言いたいところだが、その遠い地平線に、いつもと違う景色に……残念ながら嬉しく思ってしまった。
「待て!緋鬼(ヒキ)!」
もうバレたのか。
さすがに[解]の奴等は早いな・・・・。
「待てよ!まだ間に合う。戻れ!戻ってくれ!」
懇願にも似た声を出して追ってきたのは、俺の良く知る人。その更に後ろの追っ手のほとんどが俺の知り合いだった。
「捕まえろ。抵抗したら殺していい。」
顔だけは知っている[解]の追っ手の隊長が指示しているのが聞こえた。
「緋鬼…街をでたらどうなるか、お前は良く知っているはずだろ…!!
最後だ。…戻れ!!」
無表情に緋鬼は相手を見る。
すると追っ手達はその年にふさわしくない静かな、そしてどこか歪んだモノに圧倒された。声を失い、身構える。
「知ってるぜ…。でも行く。悪いけど………」
おもむろに緋鬼は首にかかるペンダントに触れた。
『白(ハク)』
ふわっ と微かに空気が揺れる。
無表情な声音が静かに響いたその瞬間。音もなく、まるで生きているかのような生々しい姿の女性が目の前に浮いていた。
血の通わない白い肌。黒く長い髪に、虚ろな翠色の目。緋鬼が作ったカラクリ人形―――戦うために作られた操り人形―――[傀儡]だ。
あまりの美しさ、そして驚きで、周りの人間は息を呑んだ。
「その人は…」
「くく……お前らでは俺には敵わない……」
まだまだ幼い緋鬼の顔に、暗い笑みが灯った。
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