7人が本棚に入れています
本棚に追加
🍀静酔→
華月は基本的に、人や物事に関心を持たない。けれどすぐにその場を立ち去れないだけの何かがここにはあった。
茶室のような小さめの古い日本家屋。和風なものを好む華月は、早くもこの建物に惹かれていたのだ。
落ち着いた佇まいである筈の土壁の家だった。その周りを囲む禍々しいほどの原色に彩られた遊具が、この空間を奇怪なものに変えている。
音を立てて揺れる乗り手のないブランコに、派手なコントラストの滑り台。作った人物のセンスを疑いたくなる。
「ようこそ神秘研究会へ」
誇らしげに両手を広げる島中に、華月は思わず回れ右した。この辺りだけ人気がないと思うと、どうやら皆してこの奇妙な場を避けて歩いているようなのだ。やけに喧騒が遠い気がする。
「ちょい待った!せっかく捕まえた新入部員をそう簡単には逃がすつもりないから」
大きめの手のひらに文字通り首根っこを掴まれた。季節外れの黒い服が影を作り、外に出てない白い顔は新入部員?と片眉を上げる。
「悪いが、奇妙なものと関わる気はない」
締まった襟首にむせながらも、華月はその切れ長の瞳で冷静に見据えた。目の前にはシルバーアクセで飾りたてた日本離れした少女の顔。
「見学だけでもいいじゃん華月。あんたはここに入る運命らしい」
桃歌が笑ってウインクする。その言葉につられて再び奇妙な建物に目をやると、そこには蜜柑がいた。
「……は?」
「わーい華月ぃ!華月も入るよね」
あの語尾にハートが付かんばかりの懐きっぷりは、確かに柑橘系の名前を持つ友人だった。
隣には頭二つ分は背の高い青年がいる。
「いつの間に……」
一瞬の出来事だったのだ。回れ右をして島中に引き止められ、視線を戻した時にはもう二人並んで立っていた。
「貴女が大林華月さんですね?お待ちしておりました。樫木蜜柑さんもどうぞ」
儚い雰囲気の男性は優しく微笑んだ。傾げた頭に、色素の薄い髪がサラリと重力に従って揺れ落ちる。この怪しい研究会の部員なのだろうか。奇妙な感覚に華月は息をのむ。
「桃歌も手伝ってくれるね?」
男性はそう言うと遊具の間を縫っては日本家屋に歩み寄る。桃歌もまた
「任せとけ」
と後に続いた。
最初のコメントを投稿しよう!