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💠あいす→
大学から徒歩10分と聞いていた大学寮までたどり着いたのがそれから2時間後。
もっと詳しく地図を書くなり案内板を出すなりするべきよ、と華月は理不尽にも少々苛立っていた。
「ありがとうございました!また学校で会いましょうね!」
笑顔でお礼を言った蜜柑に対し
「明日からは迷わないように気をつけて」
迷ったのを完全に蜜柑のせいにして華月は愛想無く帰って行った。
寮母さんに挨拶をして、案内された部屋に入るなり蜜柑はゴロンと寝転び伸びをした。
やっとの思いでたどり着いた寮。『まるみ荘』と書かれた看板は角が錆び付き傾いていて、想像していたよりもずっと年期が入っていた。
家賃がひと月2万円という安さに惹かれて入寮を決めたのだが、その理由も頷ける。
木造建ての寮は誰かが歩く度ミシミシと音をたて、部屋は4畳半の畳部屋。
ドアや窓からは透き間風が吹き抜けている。
しかし新学期に向けて付け替えられた真新しい畳からはふわりとい草の良い匂いがして、何だか懐かしい気分になれた。
(華月さんちゃんと帰れたかなぁ……)
壁に掛けたばかりの時計は午後6時を指していた。
華月は実家生だが、実家から2時間もかけてバス通学するらしい。
地下鉄や電車があれば少しは時間短縮できるらしいが、生憎この田舎の大学にはバスという通学手段しかなかった。
寮から最寄りのバス停までは徒歩5分。寮の前にある急な坂を下ればすぐ右手に見える。
華月の極度の方向音痴さを身を持って体験し心配していた蜜柑だが、さすがに迷い様がないはずと自分に言い聞かせ
「よしっ!」
と気合いを入れて立上がり、先に部屋に届いていたたくさんの段ボールを開け荷物を取り出し部屋の整理を始めた。
まさかこの時華月がバス停にたどり着くまで1時間もさ迷っていただなんて想像もせずに……
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