7人が本棚に入れています
本棚に追加
🍀静酔→
この二人が出会ったことは広い世界に長い人生、ほんの些細な出来事と言える。
広すぎる大学のキャンパスは再び二人を巡り合わせることもないだろうし、一カ所に留めるような大型ショッピングモールのない田舎は偶然居合わせることもしないだろう。
ただ二時間の時を共に歩き、名前以外の情報を知らない二人が出会うことなどある筈もなかった。
「あ……」
「華月さん!」
……普通は。
「いやぁ偶然ですね~!まさか入学式にも会えるだなんて」
蜜柑は昔の友達に突然会えたかのようにはしゃぎ出す。初めて身に纏ったスーツはぶかぶかで、どう見てもピカピカの一年生だ。
「華月さんは就職活動ですか?」
普通に聞いたら嫌味だと思うだろう。しっくりと馴染み過ぎたスーツは確かに貫禄がありすぎて初々しさとは程遠い。けれど蜜柑の言葉には混じり気のない純粋な疑問しかなかった。
「入学式はスーツが主流だろう?」
「えぇ!?華月さんも入学なんですか!!?じゃあもしかして同い年?」
「……」
目を見開いて驚く蜜柑に、華月は黙ってデコピンした。仏の顔は二度までだったらしい。
「わぁっ!」
驚いた蜜柑を無視して華月は辺りを見渡した。
「で……学校に行かないのか?」
「痛いよ~~。……華月こそ」
偶然にも方向音痴は同じ方向に迷うらしく、再び巡り会うこととなった。
空は快晴。のどかな田園風景が広がる町は、物事の始まりには相応しいくらいに清々しい。
「サボるか」
早々に諦めようとする華月に蜜柑は食い下がる。
「それじゃあ本当に休憩時間のOLになっちゃうよ!」
バチンッ
「あう……ヒドい」
赤くなった額をさすりながらも、蜜柑は華月の背中を追った。このまま町中の見学をするのもいいかもしれない。
どこまでも広がる世界は、いつでも新鮮で鮮やかだから。
青空の下、くっきりと黒い影は足元に二つ。
どこに連れて行かれるのかと不安気に揺れていた。
最初のコメントを投稿しよう!