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🍀静酔→
華月は何とか校門にたどり着いた。新しい生活と言っても所詮は地元。方向がわからないこと以外は知り尽くした場所だ。特に何かが変わった訳ではない。
強いて言えば制服がなくなったことと、入学早々煩い……いや賑やかな友達が出来た(捕まった)くらいのことだろう。
「今日はまだ授業はないんだったな」
今更ながらパンフレットを開いて確認する。そこにはサークル説明週間としか載っていなかった。
「……帰ろう」
校門の前で回れ右をした所で明るい茶色に鉢合った。朝日にキラキラと輝くそれは、華月より幾分か背の低い少女のものだ。顔を確認するより早く、手のひらを握り込まれる。
――ガシッ
あえなく捕まった華月は、結局キャンパスへと足を踏み入れることになってしまった。
「~~イヨカン!」
「蜜柑!全くいつになったら覚えるのかな」
刃向かおうと口にした名前は、間違っていたことで軽々と遮られてしまった。手を掴んで離さない小さな生物を見下ろすと溜め息をつく。
「蜜柑、私はサークルに入る気なんてない」
「え!?なんで?」
急に足を止めた蜜柑は、信じられないものでも見るように目を見開いた。彼女の中では大学生イコールと言って良いほどに、サークルが重要事項なのかも知れない。
「何でって……」
そこで華月は一旦息を吐く。次に黒目がちの瞳が開いた時には、強い眼差しに変わっていた。
「時間が無駄だと思うからだ。そもそも大学のサークルほどチャラチャラとしたものはない。飲み会だのコンパだのと言って酔いつぶれたりする連中の気が知れない。全くもって何が楽しいのかさっぱりだ」
「よいしょっ……うんしょっ」
喋り続ける華月も、蜜柑の唸り声にふと我に返る。
「ようこそ!我が大学へ」
気がつけばそこは、サークル勧誘の集中スポットだった。いつの間にか大学の中央まで引きずられていたらしい。
「ちょっ……甘夏!」
「蜜柑だよ!もう、わざとやってない?」
いつものやりとりもそこそこに、蜜柑はあっという間に勧誘の嵐に囲まれてしまった。童顔というわかりやすい一年生は餌食になりやすいらしい。
「良かったなオレンジ」
これ幸いにと背を向けた華月の手は再び捕まってしまう。
「?」
その手の主に、華月は首を傾げた。
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