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暗い路地裏。
背の高いビルに囲まれた、太陽の光も届かないそんな場所。
そこで、私は向かい合った彼の瞳の中に、不思議な色を見た。
キラキラと、闇色に、暗く、明るく、輝く瞳。
ナイフを片手に彼が微笑む。
白い肌の中で唯一、艶やかな紅い唇が三日月形に歪んでいる。
怖いくらいに綺麗な顔。腰まで伸びた闇色の髪が、風になびいて、まるで髪自体が生きているかのようにうねる。
風に乗って、臭いが漂ってきた。
匂いなんて、生易しいものじゃない。それは、臭い。悪臭。そう、
――死臭がする。
それは、血の臭い。肉の臭い。その他にも臭いはするけど、何の臭いかなんて分からない。ただ、死臭がする。
漂う臭いが離れない。体に纏わり付く死臭。臭いが、体中に染み渡っていく。呼吸をすればするほど、臭いが強さを増していく。
体が、脳が、震える。
彼の足元に転がったボロボロの何かが、死臭を放つ。
おそらく、それは―――――――――――――――――――人間。
男なのか、女なのかなんてわからない。年齢も分からない。
形も残らないくらいズタズタに切り裂かれて、刺されている。赤色がその全身を彩る。
圧倒的な、死だった。
それは、地面に血の水溜まりを作り、壁にも赤い染みを作っている。
異常なくらい、心臓がバクバクとうるさく鳴っている。まるで、耳元に心臓があるかのようだ。
一瞬、こことは違うアカイ世界が見えた。
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