×彼と私と赤い世界×

2/8
前へ
/65ページ
次へ
 暗い路地裏。  背の高いビルに囲まれた、太陽の光も届かないそんな場所。  そこで、私は向かい合った彼の瞳の中に、不思議な色を見た。  キラキラと、闇色に、暗く、明るく、輝く瞳。  ナイフを片手に彼が微笑む。  白い肌の中で唯一、艶やかな紅い唇が三日月形に歪んでいる。  怖いくらいに綺麗な顔。腰まで伸びた闇色の髪が、風になびいて、まるで髪自体が生きているかのようにうねる。  風に乗って、臭いが漂ってきた。  匂いなんて、生易しいものじゃない。それは、臭い。悪臭。そう、   ――死臭がする。  それは、血の臭い。肉の臭い。その他にも臭いはするけど、何の臭いかなんて分からない。ただ、死臭がする。  漂う臭いが離れない。体に纏わり付く死臭。臭いが、体中に染み渡っていく。呼吸をすればするほど、臭いが強さを増していく。  体が、脳が、震える。  彼の足元に転がったボロボロの何かが、死臭を放つ。  おそらく、それは―――――――――――――――――――人間。  男なのか、女なのかなんてわからない。年齢も分からない。  形も残らないくらいズタズタに切り裂かれて、刺されている。赤色がその全身を彩る。  圧倒的な、死だった。  それは、地面に血の水溜まりを作り、壁にも赤い染みを作っている。  異常なくらい、心臓がバクバクとうるさく鳴っている。まるで、耳元に心臓があるかのようだ。  一瞬、こことは違うアカイ世界が見えた。
/65ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加