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「何で、だろうなぁ~?」
面白そうに笑って、問いかけてくる彼。
――私は、本当に…何も?
「まぁ、いっか。何だか今日は気分がいいかんな、特別に教えてやんよ」
浮かべられたのは、凶悪な笑み。
背筋がゾクリとする。冷や汗がじっとりと浮かんで、気持ち悪い。
「生きるため、だ」
彼の瞳がキラリと光った。
その光りは獰猛で、楽しげで、悲しげで、淋しげで、儚げで、本気の思いが宿っていた。
嘘なんて何処にもない、本気の、本当の、本物の、思い。
「生きる、ため?」
そう聞いた途端、彼の雰囲気がガラリと変わった。まるで、軽い羽のような、掴めそうで、掴めない。指の間をすり抜けていくような感じ。
「ん、そう。僕ってばか弱いから、一日一回人を殺さなきゃ、禁断症状でるんだよ。熱出すわ、呼吸困難になるわ、吐くわ、痙攣するわでもう大変。禁断症状ってのは恐ろしいと、実感させられたわけだ」
ウン、ウンと頷く彼。そんな仕種は、普通の人と変わらない。
ただ、話しの内容が異常だった。
――ふと、考える。
生きるために人を殺す。それは、彼の生命維持に必要なこと。
だったら、それは――罪ではない?自分の命を守るためなら、人を殺してもいい?
冷たい視線。
ハッと、顔を上げると彼がこっちを見ていた。
「お前、何考えてんだ?」
静かで、抑揚のない声。それが怖い。それに感じるのは、単純な恐怖。
静かさの中に、うるさいほどの怒りを感じる。抑揚のなさに、激しい感情の動きを感じる。
「僕は、読心術を心得てる。お前の考えてることなんて見え見えなんだよ」
無表情で睨みつけられる。
怖い。
――あれ?何、が?
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