第一章 「その男、殺し屋」

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仕事を終えて、車に乗り込む。   自分にとっての仕事とは、依頼された人物を抹消すること。  それがいつもの変わらぬ日常。 悲しみを背負って、心に嘘をつきながら暮らしてなどいない。   罪悪感などかけらもない。 きっとそういう風にできているのだろう。    人を殺してはいけない。 それは誰が決めた?  法律で決まっている? 法律を守らないとダメだと誰が決めた?  やめよう。 小学生のホームルームみたいだ。    生きる為に動物を殺して食べていいなら、俺は人を殺すことで、間接的ではあるが生きている。  何が違う?    目立たないように暮らしてはいない。 逃げるように生きてなどいない。 殺す相手に感情は持たない。     配線が剥き出しの手作りのパソコンに次の依頼が入った。  依頼がどこからきているかを把握する為に後で俺は調査をする。   依頼の相手を把握しないまま引き受けるほど、勇気はないし、バカでもない。   一匹狼でもない。   そんなに自分のいる世界はシンプルな状況ではない。    イギリス特有のスペリングミスのある依頼が来ていた。 「やれやれ、今そこから帰ってきたばかりなのに」 そうつぶやき、受話器に手を伸ばした。
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