闇に向かう2人

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モーターボートがエンジンを止めると、海から黒い地面が現れた。 「うん、時間通り。さすがジュード」 「ジュードって、スナイパーの?」 「お、有名だね。スナイパー図鑑にでも載ってた?」  黒い地面に見えたものは潜水艦の甲板だった。 「初めて潜水艦?」キスギが潜水艦を見て固まってるレイに聞く。 「ええ、初めてよ!こんなにわけわからないのも初めて!」 「さ、乗りこもう。イギリスのチューブよりわかりやすい乗り継ぎだろ」 「狭いし、暗いし、おまけに海中だわ」 「でもシャワーあるよ。さあ行こう」 キスギがレイの手を強く引く。 「あなたじゃなかったら、絶対着いていかないわ」 「全部、君の依頼から始まったことだけど」 「なにもかも急過ぎて混乱しているの。何も説明してくれないんだもの」  聞かないからだよという言葉が浮かんだが、キスギは飲み込んだ。  船内はさほど大きくはなかったが、モーターボートよりは当然マシだった。10人 ほどの男達が計器を見たり忙しく作業をしていた。1人の男が近づいてキスギと握手 を交わした。 「久しぶりだね」短く整えた金髪に長身、そう言って爽やかに笑うジュードという男 はその仕事の数は少ないものの、世界屈指のスナイパーだった。 「いい舟を買ったと聞いたものだから」キスギがブリティッシュイングリッシュで話 す。 「安くはなかったけどね。キスギ、紹介してくれないのかい。美人がいて気になって しょうがない」 「ああ、レイだ」極めてシンプルにキスギはレイをジュードに紹介した。その方がい い場合もある。 「はじめまして、レイです」レイも彼がスナイパーであることは知らないふりをし た。 「お美しい方とお近づきになれて光栄です」そう言って優雅にジュードが手の平に口 づけをした。  ここだけ見たらさながら16世紀の社交界のようだ。  レイがキスギの方を向いてウインクをした。  キスギはその意味を考えていた。
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