交渉

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    エレベーターに乗り込む。 74F  このフロアには監視カメラがあるのみで人は誰もいない。ずいぶん手薄だ。経費削 減かな。  事前に見た図面から、おそらくボスがいると思われる場所の真下の部屋に入る。鍵 は旧式のものだ。向こうは最新と思っているかもしれないが。  ダクトや換気口から入るの映画の中だけの話というわけではない。勿論、中に赤外 線探知機くらいはあるが、センサーを狂わせるのは簡単だ。  どうやら、映画をあまり見たことがないらしく、ダクトには何もなかった。ここま で無用心だと逆に怖い。  サーモグラフィで板一枚上の階の人数を確認する。 3人。入口に2人。窓際に1人。この少なさはなんだ。  まあいいか。  ダクトの一つからスモーク球SK621を投げ入れる。悲鳴。逆側にすばやく移動 し、あらかじめ外したダクトから抜け出す。煙幕の中、一目でそれとわかる屈強なボ ディガードに麻酔弾を打ちこむ。  煙が消え、窓際に男が一人立っていた。  「はじめまして」そう言うと男はゆっくりとこちらを向き、少し微笑みながら「い え、はじめてではありませんよ、来生(キスギ)さん。」と言った。  確かにその女のような端正な顔に俺も見覚えがあった。かつて、世界中から恐れら れた殺し屋、黎(レイ)、通り名は「針」。
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