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プリントを押し付けられたことがショックなんじゃない、
わたしがあんな男を好きなことが嫌なんだ。
中学二年生の秋、私は重くって仕方がない社会科のプリントを持って廊下を歩いていた。
私が好きな男子は、私のことをただ便利で地味なクラスメートの女だと思ってる。
だから彼が社会科の先生に押し付けられたの嫌がったとき、「ナラザキさんがやってくれるよ」、ってたまたま隣の席に座ってた、私に押し付けた。
わたしがあなたの隣の席、なれてどんなにうれしかったか
知らないあなたはとてもとてもひどい人だ。
誰もいない渡り廊下に差し掛かった頃にはいつの間にか泣きそうになっていた。
だって、こんなのってあんまりだ。
わたしだってこんな重いプリント持ってあんな陰欝な社会研究室なんて行きたくもない。
頭がずんと重くなってくる。ああ、わたしは泣くかもしれないと思った
そのとき、だった。
「……あ…」
向こうの扉から、一人の男の子が肩で息をして、こっちを見ているのに気が付いた。
うちの学ランに身を包んだ、男にしてはちょっと長めの真っ黒な髪。胸には一年生を示す緑の校章だ、後輩なんだろうか。まだ背が小さく小柄な体型、学ランにでも身を包んでいなければ男だとは思わないかわいらしい顔。女の私の方が気落ちしてしまう。
「……あの、」
目があって気まずい雰囲気にでもなるかと思って身構えた私に、その後輩は真っ直ぐ私のほうへと歩いて来て、そして私の目の前で止まる。
「先輩、」
彼はたどたどしく、そして少しだけ緊張したように、私の手に抱えられた四十人分×2のプリントを指差す。
「そのプリント、重そうですね」
持ちましょうかと首を傾げたその姿は、小動物を思わせた。
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