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ユート達全てを倒した気になっているのか、ドラゴンは喉を鳴らしながらたたずんでいる。
周囲の様子を窺うと、同僚の一人が見当たらない。どうやら先の攻撃でやられたらしい。
しかし、ユートの脳裏に浮かんだのは憎しみの感情ではなく、戦うための冷静な思考だった。
二対一とはいえ、形勢は不利。残った同僚はドラゴンの姿に圧倒され身動きがとれていない。
とるべき手段は一つしか思い浮かばなかった。
「こっちだ!」
ユートはドラゴンの気を引くために声を上げる。と同時に生き残った同僚に目をやる。すると同僚はその意図を読み取ったのか、街へと駆け出す。が、ユートの意図は完璧に伝わってはいなかった。
「応援を呼んでくるからな! 頼んだぞユート!」
ドラゴンはその声に反応し、狙いを同僚へと移す。
「何をやってる! 早く逃げろ!」
ユートは再び声を上げ、剣を後方に構えて走り始めた。
渾身(こんしん)の力を脚にかけ、爆発的な加速で同僚を追い始めたドラゴンへと向かう。
狙うは足に対して極端に細くなった足首。自身に付いた速度をそのまま剣に乗せ、ユートは全力で切り付ける。
かつての戦争で、幾人(いくにん)もの鎧を貫いてきたユートの高速剣。しかし最強の硬度を持つドラゴンの鱗が相手では、そうはいかなかった。
ユートの身体に響く痺れるような感覚は、渾身の一撃が防がれたことを示していた。
「お前の相手はオレだ!」
それでもユートは声を荒げて挑発する。そして自分の身体を軸に鋭く回転し、再び剣を叩き込んだ。
二度にわたる衝撃によって、ドラゴンはユートへと狙いを変え、戦闘態勢を取り始める。
「ようし。それでいいんだ」
ユートは、警戒しながらドラゴンとの距離をとると、これからの戦いを楽しむかのように笑みをこぼした。
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