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──応援を待ちながら、数時間もの間ユートは戦い続けた。
ドラゴンの吐き出す炎によって、身体の至る所は焼け焦げ、その苦痛に顔を歪める。
しかし、疲弊しているのはユートだけではなかった。鱗の数ヶ所ははげ落ち、もともと鱗がなかった箇所は切り裂かれている。
互いの生命をぶつけ合った数時間は終わりを迎えようとしていた。
「結局応援はこなかったな……」
ユートはボロボロになった剣を再び構え、相手を見据える。
同じくしてドラゴンも、落ち着いた様子でユートを見ていた。
「賢すぎだよお前」
研ぎ澄ました感覚を一気に爆発させる。ユートの指先に淡い光が灯り、剣をなぞると全体を光が包んだ。
それに呼応するように、ドラゴンの口元から紅い光がもれる。
「やっと終わりだな。悪いけど、勝つのはオレだ」
ユートは短く呟くと、ゆっくり足を踏み出した。
次第に加速を付け駆け寄ってくるユートに、ドラゴンは有無を言わさず炎を吐く。
対するユートは、迫る炎を避ける素振りも見せずに突っ切って行く。
一瞬にしてユートの身体は炎を包まれ、ドラゴンは勝利を悟ったように唸り声をあげる。
しかし次の瞬間には、その状況は覆ることとなる。
燃え盛る炎の中から飛び出す一つの光。剣を覆っていた淡い光は、いつしかユートの身体全体を包んでいた。
ユートは速度を緩める事無くドラゴン目がけて跳躍し、眉間に剣を突き立てる。
油断したところで急所を貫かれたドラゴンは、断末魔の叫びをあげることなく、わずかに呻いて絶命した。
対するユートも、すべての力を使い果たしたのか、無言のままその場に伏せてしまった。
激戦の後、薄暗い森は再び静寂を取り戻し、シトシトと哀しげに降り続ける雨音だけが、戦いによって傷ついた痛みを静かに嘆いていた。
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