相模千歳という人

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  同期の相模千歳というヒトは、非常にモテる。 見た目も良くて、普通に優しい。 仕事だってキッチリこなすし、上司からの信頼も厚い。 そんな彼に、イロイロな意味で想いを寄せるオンナは多い。 そして、私もその中の一人。 誰にでも平等に親切な彼の、トクベツを手に入れるのは難しいんだと思う。 「あれ?井上??」 仕事始めまで、あと2日。 特に予定もなく街へ出た私に降ってきた声は、 「さ、がみ、くんっ?」 「何してんの?」 その、相模くん本人のモノ。 突然の出来事に、うまく言葉が出ない。 「えっと、あの、特に予定もなくて、買い物でも、しようかな。って」 「ふーん」 「相模くん、は?」 「あぁ。俺も暇だから、ちょっと本屋に行こうかと思って」 言って指差すのは、この先にある大型書店。 「そー、なんだ」 「面白いのあるといーんだけど、な」 「読みたいのがある訳じゃないの?」 「や、暇つぶし」 見上げた私に、小さく笑顔を見せて、 「じゃあ、休み明けに。……あぁ、その前に、あけましておめでとう。か」 「あ、うん。今年もよろしく」 「ん。じゃあな」 でも、会話はアッサリと終了。 向けられた背中に、呼び止めようと反射的に口を開いても、言葉が出ない。 こんなチャンス、滅多に無いのに。 休み中に会えるなんて、こんなチャンス、 「っ、さ、相模くんっ!!」 何とか音になった言葉は、相模くんを引き止める事に成功。 ゆっくりと振り返って、 「どした?」 「あ、……えっと、」 進んだ距離を戻ってきてくれる。 「井上?」 「……あ、の、……映画っ!」 「映画?」 「もし、時間あったら、……映画に、行かない?」 私の言葉に、相模くんは不思議そうな表情をして、 「別に、いいけど。……買い物は?」 「っ、本当は、映画が観たかったんだけど、……でも、友達と都合が合わなくて、」 「うん?」 「一人じゃ、行けないし、」 言い訳みたいな理由。 実際、相模くんを引き止める為の、嘘なんだけど。  
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