第2話 夢の始まり

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校長を保健室に引き摺って行った後、計叶は鬱病に掛かった患者の如く溜め息を吐き続けていた。結局あの後、エリーゼは何処かへと走り去ってしまった。 流石に、見ず知らずの男と事故であったとしても、二回も唇を奪われれば我慢出来たものではないだろう。エリーゼは今頃、必死で口を濯いでいるに違いない。 …ふと思った。不可抗力でキスをしてしまった訳だが、何と言うか、不快では無かった気がする。というと変な意味で捉えられ兼ねないが…要するに、公序良俗に反する行為には違いない。しかし、何だろうか、羞恥心は確かにあったけれども、嫌悪感を感じる事は無かった。 …それはつまり、エリーゼが嫌いという訳でなく、むしろ好きの部類に入る事を意味する筈だ。 「…そもそも俺は、こんな事を大真面目に考える奴だったのか」 「あぁ、そうさ!お前は常に大真面目。働き蟻人間計叶と言っても過言じゃないぜ!」 …そうか、そうだな。俺は大真面目な働き蟻人間計叶…ちょっと待て。誰だ?俺を働き蟻人間呼ばわりする奴は。いや、言わなくてもいい。大体予想はついてる。 「…義明、働き蟻人間呼ばわりするのは止めろ。言われると結構傷付くぞ」 「ヘコんでるな。エリーゼちゃんと何か問題でも起こしたのか、計叶?」 …こいつ…起きないとでも思っていたのか?諸悪の根源め。まぁ、過ぎた事をとやかく言っても始まらない。そうだ、彼女はこの学校の地理に詳しくない筈だ。戻って来ないという事は、もしかすると道に迷っているのかもしれない。 「なら、やる事は一つだな。よし決めた、早速行くか」 「なんだ、エリーゼちゃんに告白する事にしたのか?俺の知らない間に、二人の仲はとても言葉では言い表せない仲になっていたんだな。でも、俺は諦めないぜ」 「誰が、いつ、そんな仲になった!そして、お前は何を諦めないつもりなんだ!俺は、エリーゼを探しに行くだけだ!」 …全く何を言い出したかと思えば、口の減らない奴だ。俺がエリーゼと?まさか…いや、待てよ?昨夜俺とエリーゼは同じ部屋で寝ていた訳で、何かしらの間違いが起こっても不思議ではない状況下に置かれていた。俺はロリコンでは決してない。 …それを知った人がいるとしたら、そんな解釈をしても不思議ではない、という事になる。 悪友の誤解を解くべく、懸命に言葉を繋げる計叶であった。
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