第2話 夢の始まり

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「…何で、分かるんだ…?」 そもそも、計叶はエリーゼが何処に行ったのか、何処に行きそうなのか、まだ何も知らない筈だ。彼女に会って一日経った程度なのだから、知らないのはむしろ当然だろう。 そう思ったからこそ、計叶は校舎の端から端まで虱潰しに探し歩くつもりだった。だがしかし、これは一体どういう事なのか。と、計叶は疑問を抱いていた。 計叶が違和感に気付いたのは、義明と別れてすぐの事だった。足は計叶の意思とは裏腹に、迷い無く走り出していたのである。計叶の頭の中に浮かび上がったのは、子どもが書いた宝の地図の様なもので、内容は至って適当だったが、読み取れなくは無かった。 その脳内の地図を辿って、ある一点を目指す。そこは、ある意味この手の展開に頻繁に利用される事になる、言わば定番の場だった。 …さて、この手の展開とはどういう事なのか。一体何処に向かっているのか。なんだか無性に解説をして、気を紛らわせたくなって来た。 …まず、有り得ない事だろうが、頭の中に一つの映像が流れ込んで来ている。映っているのは二、三人の女子生徒に五、六人の男子共。 …それだけならまだ良かったのだが、物凄い剣幕で怒鳴る女子に、周りから見えない様に壁を作る男子三名。そして、校舎の窓が無い壁に囲まれた、バスケットコート半面分の空間だ。 …流石の俺でも、これを他の何かと勘違い出来る程愚かではない。そして、予想通りに耳に届いて来たのは、 「たすけて!ケイトーーッ!!」 エリーゼの悲鳴だった。これの意味するところはヘルプミー。つまり、計叶へ助けを求めていると理解する。 「エリーゼ!」 …何でこんな事になっているのかは分からない。けれど、少なくとも俺がしなくてはならない事は分かる。エリーゼを泣かせた連中を、取り敢えず――喰い殺す――? 「ちっ!大声出しやがって、気付かれたじゃん!こいつ片付けたらお仕置してやる!」 「あはは!こいつ、いつまで真面目ぶってんの?マジ、キモいんですけど~!」 …何か言われている気がするが、よく聞き取れない。脳が彼女の声以外の音を排除しているかの様だった。 「ケイト…?…ケイトっ!」 「…か、はぁ、は、っ…!」 息が苦しい。呼吸が乱れる。しかし、集中を解かない。もし、一瞬でも気を抜こうものなら、きっと何かに体を取られるに違いないと、ぼんやりと計叶は思っていた。
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