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…耐えろ、耐えろ。何だかよく分からない。取り敢えず耐えろ!
「ケイトっ!」
エリーゼの声が聞こえて来る度に、計叶は自分の体に熱が込み上げて来るのが分かった。そして、このままでは耐え切れず、溢れる熱の奔流に飲み込まれるだろう事も分かった。
…何となく素数でも数えてみるか?いや、もう限界だ――限界ではない。ただ知らないだけだ。力に身を委ねる感覚を――
…誰かの声が脳内に響く不思議な感覚があった。ぐらぐらと視界が歪んで見える。
――お前は下手だな、どうも。この体の主導権を握っているのは、他ならぬお前だろうに――
「はは、なんだぁ?急に怖くなったのか?体調不良なら、そう言えば見逃してやったってのにな。うはは…はは…?」
――何だ、言い残す言葉はそれだけか?雑魚め。本来なら、こいつが相手にする価値も無いが…まぁ、軽い肩慣らしにはお誂え向きという事か――
「ひっ!なんだ、どっから声が…!」
――どうした?体が震えているぞ?雑魚共!――
「く、来るな…来るなぁ!こっちに来る…ぶぇっ!?」
男の反応は下の下、悲鳴を上げるどころか首が軽々とへし折れた。柔らかい首筋の肉を裂いて、折れた骨の一部が凶悪に突き出している。
一瞬遅れて、桜色の雨が辺り一面に撒き散らされる。その場にいた全員の時間が数秒止まった。
「ぃ…嫌ああああああぁっ!!!?」
女子の悲鳴を皮切りに、最早どれが誰のものか分からない程に混ざり合った悲鳴が上がり、目の前の惨劇に恐怖した。そして、目の前の恐怖から逸早く逃れようと、縺れる足を必死に動かす。
だが、それは徒労に終わった。
「出られねぇっ!なんだよこれ、ふざけんなぁっ!」
「嘘でしょ…!何処にも、壁なんてないのに!何?なんなのよっ!?」
――慌てる事は無い。この中にいる限り、死にはしない。…嬉しいだろう?安心して、幾らでも死んでいけ!――
鋭い抜き手が二人の肩を紙か何かの様に易々と貫き、手から腕にかけて生温かい血が肌を伝う。
「あああぁぁっっ!!!」
男子の方は気を失ったが、女子の方は叫ぶ元気があるらしい。自身の血で染まった床に倒れ込み、嗚咽を漏らしている。
――面倒だ。残りは纏めて喰い殺す事にするか。自らが死に至るまでの感覚を、存分に楽しめよ?――
「やめて、ケイト…!もうやめてっ!」
エリーゼの悲痛に満ちた叫び声が、隔絶された空間に響いた。
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