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真っ赤に染まった空間に肉片や肉塊が転がっている。大きさは全てバラバラで、どれも脈打つ様に鼓動している。
「…も、う…嫌…誰、か…」
肉片が喋った。否、それは人間の首だった。強引に引き千切られ血の海に沈み、ただくぐもった嗚咽を漏らしている。
…助けなければいけない筈だ、だがもう助からないのは見て取れる。しかし、それ以前に体が動かない、声が出ない。
…そう言えば、思い出した。何かが体の奥から湧き上がってきて、声が聞こえて…そこから、記憶が無い。
「ケイト…!もういいの…もういいから…やめてっ…!」
声に反応して顔が勝手に下を向き、縋り付く様に服を掴むエリーゼを見下ろす。返り血を全身に浴び、エリーゼの新品の制服は台無しになっていた。
…俺の意思を無視して、勝手に首が回される。何だこれ?一体どういう事なんだ?
計叶の視界に映し出されたのは、死体と思しき人間。ただし、原形は留めていない。微かに未だ息がある様だ。
――漸くお目覚めか。丁度仕上げに入ろうと思っていたところだ。そこで見物していろ――
脳内から響く声に従い、体は正確に動く。それこそ操られている様にして歩き、ある地点で止まった。
足元が光り始め、直ぐに何も見えなくなる。数秒程で光が収まった時には、血痕も、分断された肉片も消え、気を失って倒れた九人の生徒が残されていた。
…何なんだ、一体どうなって…いや、そんな事よりする事がある。
「…エリーゼ…?」
「ケイト…?」
無理も無いが、エリーゼは酷くぐったりしていた。それに加えて、今にも倒れそうだった。と、呑気に観察していると、エリーゼが冷たい目で計叶を睨み付けていた。
「ケイト、なんであんなことしたの…?あそこまでしなくちゃいけなかったの…?」
嫌な汗が一滴、背中を流れる。続いて二滴、三滴と流れ、中に着たシャツが背中に張り付いた。計叶は、何と説明すればいいのか焦りながら、取り敢えず喋る。
「じゃあ逆に訊く。あのまま俺が来なかったら、どうするつもりだったんだ?」
…エリーゼは答えない。恐らく、頭の中が闇鍋の具みたいにごちゃごちゃになっているんだと思う。かく言う、俺がそうなっているから。
「…わかんない」
「俺もだ」
…状況が状況だし、この場にそぐわない事は承知の上で、取り敢えず、笑ってみた。
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