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…さて、これは何だろう。手の甲を向けて差し出された場合、どういう挨拶に臨めば良いのか。
…左右から両手で挟んで拝めばいいのか?いや、違うな、それはローマ法王に対してする礼だ。
…じゃあアレか?手を重ねていって、ファイッオー!って、馬鹿にしているにも程がある。
計叶は頭を振って、ふざけ気味の思考を追い出した。そろそろ、怪訝そうな顔でずっと計叶を見てる彼女から、あんた挨拶も出来ないの?みたいな台詞が聞こえて来そうだったからだ。
だがしかし、こういった類の挨拶を今までにしたことが無かった計叶は、仕方というか作法というか、その辺りが分からなかったのだ。そもそも、ごく一般の日本人生活を営んでいれば、遭遇する事は皆無だろう。
…あぁ、由緒正しい騎士の生まれとかだったら良かったのに、と思う。
少女はいよいよ不思議そうに首を傾げ、何を思い付いたのか得心がいった様子で、こう宣いになったのだった。
「ケイト、くちづけをゆるしてあげるわ」
口付けと言うと接吻。所謂キスである。何で万国共通の挨拶もとい握手ではないのか。
…フォンという事は、彼女は貴族なのか?貴族の女性は皆こんな事しているのか、大変だな。
「ところで、エリーゼさん?」
「エリーゼでいいわ」
「あぁ…じゃあ、エリーゼ。郷に入っては郷に従えって諺を知っているか?」
…絶対知らない。幾ら日本語が上手く話せても、諺を知っている外国の人がいるなんて聞いた事が無い。日本語学校とかに通っていれば話は違うだろうけど。
そして、計叶の予想通り、エリーゼはその諺の意味を…
「しってるわ。そのとちにすんでるひとのいうことをきいたほうがいい、でしょ?」
知っていた。大体合っている。どうした事だ、最近の留学生はことわざを覚えてから日本に来るのか。と、計叶は内心焦っていた。
「そ、そうか、知っているのか。なら自己紹介の挨拶は握手をする、それが――」
「いや、互いの目を見詰め合ってマウストゥマウス…それが日本の挨拶の作法だよ、エリーゼちゃん」
突然どこからともなく会話に割り込んで来たのは、計叶の隣りのクラスの友人時々悪友だった。
「義明…今ホームルームの途中なんだが、よって回れ右して教室に戻れ…!」
「かずあき?」
「ひどいな計叶、えらく冷たいじゃないか…」
…あぁもう、話がややこしくなる。
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