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「善兄は立派だよ。麻里さんと仲いいし、仕事頑張ってるし。
僕が言いたいのはね……何だか、僕っていうのを僕自身が受け止められないんだよ……」
「受け止められない?」
善が尋ねる。
「うん……。ズルくて、弱くて、残酷で……。それでいて、大切な人には心配されたくなくて……」
「いいんだよ」
冬樹に優しく言って善は言う。
「いいんだよ、それで。
冬樹は冬樹。俺は俺。兄ちゃんは兄ちゃん。皆、自分以外の何者でもないから普通とか、変とか。そういうのはない。ないと思うんだ」
「……善兄は優しいね」
それがどんなに僕を傷つけるか善兄は分かっていないけれど、と冬樹は胸の内で言う。
「優しくなんかない。これが俺だから。俺は俺だから」
「……そういう事にしとくよ」
微笑み、冬樹は善の暖かな胸に頭を預けた。
答えじゃ、ない。善兄のそれは曖昧にしているだけだよ。
そう、胸の内で言ってから、冬樹はゆっくり目を閉じた。
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