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「――自分が分かるか?」
はい、と少年は答えた。病院の個室。ベッドに横になっていた。
何の表情もない顔。ただ、虚ろに見えるものを瞳に映していた。
「……名前、年、趣味、生き甲斐。言ってみろ」
少年を見下ろす形で医者が言った。白衣を着ているが、大柄で肩幅が広く、髪は金色に染まっていた。
「白鳳冬樹、16歳。12月24日生まれ。趣味はギター。生き甲斐は一人旅。これでいいですか、陸さん?」
少年――冬樹は医者に尋ねた。
「……問題ない。説明はお前にするか?」
医者――有川陸――尋ねると冬樹は頷いた。
「……昨夜、倒れていたお前を通りがかった人が発見して通報した。発作、だろう?」
「はい……死ぬかと思いましたけど」
「……心臓はかろうじて動いていた。だが、まだ油断は出来ない。あと、一つ……聞きたいことがある」
陸が言って、ちらと冬樹を見た。ただの医者と患者、という関係ではなかった。
陸の親友の弟で、親交は少なからずあった。だから、互いに名で呼んでいる。
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