536人が本棚に入れています
本棚に追加
「何ですか?」
「……激しい運動は止めていたはずだ。激しくなくとも、息が切れる行為などもしないように、言った。破ったのか?」
医者として、はっきりさせておくべき事だった。
「破りました」
躊躇いもなく、冬樹は答える。陸を見て、それが何か、と言わんばかりの目を向ける。
「お前は死にたいのか?」
「……死んじゃえば、楽でしょうね。死んじゃえば、苦しまない。死んじゃえば……ですけど」
「お前が、死にたいかどうか聞いている」
大きな人だな、と冬樹は改めて思った。初めて見た時は幼さも手伝って、怖がった。
「時と場所によります」
「……時と場所?」
「死ぬのなら、僕は綺麗な場所で死にたいです。道端に倒れて死ぬのはイヤです。だけど、チョモランマの頂上とか、エアーズロックを見ながらとか、ナイアガラの滝を見ながら死ぬのなら、本望ですよ。死んだって、構いません」
冬樹は心臓の病を患っていた。治らないだろうとされている。だんだん、死が近付いているのが分かっていた。
最初のコメントを投稿しよう!