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「……そこで何を得た?」
「人間への嫌悪感」
躊躇いもなく冬樹は答えた。
「……お前は兄弟、家族、友……全てを否定して、拒否するのか?」
「拒否……いいえ、僕は中絶したい気分です。だけど、僕も卑しい人間。大切な人は、大切にしますよ。ただ、人間として大きな目を向けた時、そこに僕は中絶したくなる嫌悪感を、憎悪を覚えます」
「……分かった。お前は退院を許そう」
陸が言う。まだ冬樹の容態は完全に安心出来るものではない。
「……ありがとうございます、陸さん」
「……だが、条件がある」
陸の言葉に冬樹は何ですか、と首を傾げた。
「……日本からは出るな。お得意の一人旅は国内限定だ。いいな?」
「何故ですか?何故、僕にそんなに気を使うんですか?僕が、善兄の弟だから?」
「……違う。お前は俺の友だ。以前、お前から言ったんだ。二言はないだろう?」
陸が言うと冬樹はそうですか、と言った。
「それじゃあ、一眠りしてから早々に行きます」
「……あぁ、行く時は顔を出せ」
「分かりました」
冬樹の返事を聞き、陸は病室を出た。
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