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「――冬樹!」
病院から出ると冬樹は呼ばれた。視線の先に人の姿。
茶色に染まった髪の毛に身長は標準ほど。年は二十歳少し過ぎくらいに見える。
「善兄……」
白鳳善。冬樹の2人いる兄の1人だった。
「冬樹、大丈夫?」
善が近寄ってきて冬樹に尋ねた。
「うん、大丈夫だよ。こんなに早く退院出来たくらいに」
大嘘に対する罪悪感はこれっぽっちも感じない冬樹。
「良かった……。全くもう、放浪癖どうにかしてよ?」
「えへへ、いいでしょう?数少ない楽しみなんだから」
微笑みながら冬樹が言った。
「よくない。絶対、よくない。レコーディングも心配で進まなかったんだから」
「ダメだよ、善兄。スタッフの人に迷惑かけたら」
「申し訳ない――じゃない。とにかく、しばらくうちにいてよ?」
はい、と返事をすると善は冬樹の荷物を持ってタクシーを止めた。
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