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「いだだだ!何すんのさ!
クラウンのくせに!」
小さい体のくせに喚き散らすルーシアは、鼻を掴んでいる指から離れようともがく。
「よくまわる舌だなオイ。
そんなに鉛玉ぶち込まれたいかコラ?」
鈍い光を放つ黒飾剣銃を突きつけ、クラウンは意地悪そうに笑む。
「そ、そんなことしたら僕、原型留めてられないよ」
冗談ではない、本気の表情を浮かべ、泣きそうな目をクラウンに向けた。
「…冗談だ。行くぞ」
クラウンが目を逸らした直後、ルーシアがベェーと舌を出したのは内緒の話。
ポイとその小さな体を投げ、歩を進める。
青くどこまでも広がる空には、旅人を比喩したかのように、ゆったりと流れる雲が浮いている。
歩き続けていると、次第に賑やかな人の声が聞こえてきた。
「クラウン、着いたよ。
ここがアーシディア最大の都市、王都ラノンギルディアだよ」
黄色い小動物はクラウンの首にマフラーのように巻きついている。
「わあってる。ただな、一つ言わせてもらおう。
お前な…、暑い!!」
「もぉ、こんな可愛い娘に添い寄られて嬉しいくせに」
そう、この言葉から察することができるように、ルーシアは雌である。
その外見は雄も雌も可愛らしいので判断しずらいのだが、成体になるにしたがって少しずつ判別が可能になる。
つまりルーシアは子供なのだ。
「ガキのレインスクワールにそんなこと言われてもな…
そういうことは大人になってから言うんだな」
レインスクワール。ルーシアを指し示す種族の名である。
レインスクワールは成体、つまり大人になると、人型となる。クラウンが言いたいのは要するに人型になってからそういうことを言うべきだということであるらしい。
半ば呆れたようにクラウンは首からルーシアを引き剥がし、地面に投げ捨てる。
「おら、行くぞ」
短くそう言うと、クラウンはラノンギルディアの正門をくぐるのであった。
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