三ノ刻 大償

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「おいっ…古泉…?」 なんだか抱きしめてくる腕に覇気がない。しかし放してくれる気配はなく、その態勢のまま古泉がぽつぽつ喋り出した。 「夢を見ていたんです…多分、この村の、昔の記憶でしょう」 学者らしき初老の男性とその助手らしい若い男性が村に訪れる。その村で古くから行われている祭を調べにきたようだ。 出迎えるのは村で一番大きな家の当主と、双子の娘。学者の男は、記念にと、持っていたカメラ…射影機で、双子の娘を撮影した。出てきた写真は、なぜか片方の娘のみ歪んでいた。 「それがなんの意味があるってんだよ。ほら、とっとと放せ」 いつもと違う古泉に違和感を感じていたが、些細なひっかかりだったから、俺は気付けなかった。 ぽつりぽつりと、懐かしい思い出を語るように喋る古泉の目が、何かに呑み込まれたかのように恐ろしく濁っていたことを。      
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