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あの頃の白都は、この地に君臨したばかりで傘下に降った部族の者が迫害を受ける事は珍しくなかった。
きっとあの赤子の母親もその類のもので殺されたんだろう。
しかし例え他部族の者としても傘下に入っていた以上、殺人は殺人。もちろん真相究明はされた。
教会騎士が街を見回る中、騒ぐ物音も、悲鳴も、誰も聞いていないと言う。
なおかつ、セラフが発見したときも、死体から流れ出る血は固まっている様子もなく赤子が戯れていた。
―全ては…謎。
―真相も闇の中。
更に奇妙な事に、既に3歳である赤子だったが…3歳児を赤子と表現するのは不適当ではあるが、容姿が赤子のようであったため…母親が死んだという事実に全く動じる事もなく、自分の誕生日と年齢以外なにも知らないと言い出した事も、考えられなかった。
それに、誰が殺したかをあの赤子は見ていないと言っていた。
「そんな事もあったけか…」
ぼそっとセラフは呟いた。あの出来事を思い出す度に悪寒を感じる。
赤子だと思っていた子供が話し出したと言う事実は悪魔の所業のように思えたからだ。
それはそうと、あの赤子も今では15歳の少女で、あと数ヶ月でもう一つ年をとる。
名前が無かったために1月生まれと言うことで『ガーネット』という名前が、教会より与えられた。
ガーネットは現在、教会の小間使いをやっていて、何かあればパタパタと世話しなく動いている。
長い銀色の髪が陽の光を浴びると、青とも紫ともとれる不思議な色合いを見せ、顔も整っているので、街の中でもかなりの美人だ。
まったくもって、異神の部族出はよくわからないものだ。
――セラフは連日の夜間見回りの為に少し疲れていた。
仮眠をとって疲れるようじゃ元も子もない。月時計を見ると今日は下弦の三日月。
「そろそろ…だな」
セラフはのそのそと騎士団の仮眠室から出て、団服に着替えて剣と盾を帯び、見回りの準備をした。
そして今日はもう一つ武器を手にとり外へ出ていった。
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