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「ヒラ…、子供のお前に、継父の名の重さを理解しろとは言わない。
だが、間違ったことも言ってはいない。それならばこの場合、どうしたら良いかわかるかい?」
「わかりません、ルシフ神父」
「女神が尊ぶ教えだ。継父ならではの悩みは、ヒラでは取り払えないのだよ」
「…それでは、わたしの怒りと悲しみは何処へいけば良いのでしょう?」
ヒラは神父の言葉の意味を察し、綺麗な涙を瞳に溜めていた。
ルシフはキラキラと光る涙を拭い、優しく言った。
「その涙に対する言葉が、これでは物足りないでしょうが…愚かしい戦争をしなければいけないほど…それ程に、私達の信仰は重い意味を持つのです。
しかし、真の教えはヒラの心にある。それならば、生きて次に教えを伝えるのがヒラの役割なのですよ」
「生きて…次…へ?」
「そうだよ」
そう言ってルシフは笑った。どんなに傷ついていても、ルシフの笑顔はそんな人々を支える力があった。
「さぁ、今日はもう帰りなさい。白都が来ない内に…」
この言葉を聞いたヒラは、ルシフとまた話をする約束を交わして、継父のテントを後にした。
ヒラの姿が見えなくなるのを確認し、継父が口を開いた。
「ルシフ神父、いささか強引ではあったが助かった。すまないの…」
「いいえ、私の力不足なために…ヒラのような幼子があのように考えてしまうのです」
「それが悪いことでは無いのだが…実際に戦地に立つ君の言葉には聞き分けたようだ。
それに…わしも随分と老いた。そろそろ次の継父を決めねばいけないか」
「なぁ…ルシフ神父?」
「私が…と言うのであれば、適任者は他にいくらでもいましょう。
神に仕える身でありながら戦地に立つ私は酷く矛盾している」
「この様な状況じゃそんな事ばかり言っても仕方あるまい…。
だが、すぐに答えを求めるほど気が短くは無いよ」
「期待を裏切る結果しか待っていなくても…ですか」
一瞬、2人の間に沈黙が流れる。そるを破るのは、継父だった。
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