~見習い音律使い~

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夜の地下の酒場にて-。 「「ブラボーッッ!!」」 一斉に沸く歓声。観客の視線の先にあるのは黒いスーツを着た一人の青年だった。ここビーレでは、ラルゴにより音楽関係、歌を口ずさむ事すら禁じられている。だが青年の手には楽器、サックスがあった。つまりこの酒場は音楽を求めに来た人が夜な夜な集まってライブを行っている極秘の酒場なのだ。もちろんラルゴの耳に入ったらただじゃすまない。青年は、汗を拭って客に向かって軽く礼をした。 青年が舞台裏に向かうとそこにはこの酒場のマスターがいた。 「いや~今日もいい演奏だったよ。いつも悪いね。」 マスターは拍手をして青年に言った。青年は笑いながら言った。 「どうって事ないですよ。マスターは命の恩人なんですから。」 バンッ!!! 酒場の入口の戸が開く音がした。マスターの顔色が変わった。客席からどよめきが聞こえる。この酒場の入口はマスターが許可をして初めて入れるところだったからだ。例え常連でも。 青年は舞台袖から入口を伺う。暗くて顔はよく見えないが二人組だという事は確認できた。 「マスター…。」 青年は声を潜めてマスターを呼んだ。 「ぱっと見たところ、ラルゴの手下ではなさそうです。でも客を装っているかもしれませんね。油断できません。ここから『アレ』使いましょうか?』 マスターは 『不意打ちか。…待ってくれないか。私があの二人に話をしてくる。…合図を出すからその時『アレ』を使ってくれ。』 そう言って舞台袖から客席に向かっていった。 マスターは客を裏口から避難させた。客は一斉に裏口に向かった。この酒場にはもはや謎の二人組とマスター、そして舞台袖の青年以外誰もいなかった。 「いらっしゃいませお客様…ではなさそうですね。あんたらは何物だ?」 マスターは二人組に向かって言った。 二人組の一人が言った。 「初対面の人に、ましてや客にそんな態度なんですか?」 急に殺気が膨れ上がる。 「黙れ、ラルゴの手下が。お前らにホイホイ従うほど私は落ちぶれてない。」 マスターは低い声で言った。怒った時のマスターの癖だ。そしてそれは『アレ』を使う合図。マスターが客席に向かう直前に青年と決めた事だ。 <♪♪♪…> 酒場全体に響くサックスの音色。そのメロディー自体は優しい音色だったけれど… 「くっ……」 二人組が膝をついた。マスターは顔を少し歪めていたが、膝をつきはしなかった。
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