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警察に届けを出し、懸命な捜索にも関わらず、智恵先生の足どりは一向につかめなかった。大会まで日数はないものの、状況が状況なだけに長期休暇に入っても吹奏楽部はもはや休部に近い状態だった。
無人の音楽室にただ一人、Tシャツにジャージ姿のいかにも練習やる気満々の生徒がいた。ナナだった。ピンクの塗装がはげているメトロノームの定期的な音に合わせてひたすら基礎練習をしていた。いつ先生が戻ってきてもいい音が出せるようにと、ナナは長期休暇に入ってほぼ毎日来ては練習をしていた。
そんな中また一人、音楽室に練習の為、訪れた生徒がいた。
ナナと同じサックスパートであり、また後輩でもある中村 真璃(マリ)だ。彼女もまたナナと同じ考えを持ち、個人的に学校に来たのだった。
個人練習の時、ナナはふと大会で演奏する曲の1フレーズを演奏した。すると真璃も合わせて吹き始めた。
音楽室で開かれた、二人の演奏会というところか。
その時本当に、本当に微かだけど聞こえた気がした。
亜流の音色-。
懐かしい、私が好きだった力強い音色。
しかしその事は真璃は気付かなかったようだった。やはり気のせいだったのか、とナナは少ししょんぼりした。
ピカッ。
突然の青白い光にナナは反応出来ず、もろに強い光を目に浴びる。思わずよろけ尻餅をつくが、楽器は無事だった。目はまだチカチカして痛むものの、しばらくして視界が戻ってきた。恐らく大丈夫だろう。ナナの隣では真璃が呆然として座っていた。余程驚いたのだろう。ずり落ちた眼鏡を直そうとしてなかった。
光は弱まるどころか、ますます強くなっていった。ナナの体から冷や汗がふきでた。なぜか嫌な予感がして、咄嗟に真璃を抱きしめる。庇うような形で。
光がどんどん、どんどん強くなり視界を白く塗り潰した時、ナナはふと意識を手放した。意識を失う直前、甲高い女の声がした。
「お前らの大切なものを奪うよ。」
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