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「う・・・・・。」
目をつぶっても分かる。瞼の裏に映る白いもの、暖かい光、太陽だろう。さっきの不気味な青白い光とはえらい違いだ。ナナは思った。暖かい陽射しだけど、眩しい事は分かっていたから、そっと目を開けた。
目の前に広がるは、高い木々、青い空。少なくとも先程までいた学校でない事は確かだった。
「ここ、どこだろう。」
頭痛を堪えてナナは立ち上がる。辺り一面に広がるのは木ばかり。どうやら森のようだ。時々小鳥が鳴く声が聞こえる。始めはぼうっとしていた頭も、時間が経つにつれてはっきりしてきて、ナナはどういういきさつで自分がこの場所に来たのか、それが全く分からない事に気付く。それはつまり-
「家に帰れないって事・・・・?」
ナナはどんな状況においても動じない子だった。それは部活で副部長という立場故か、または鈍感か。
今のナナは「これはただの夢だろう」と解釈していた。
ナナが夢でなく非現実的だが、紛れも無い現実だと確信したのは日がどっぷり暮れた頃だった。
確信したのはある簡単なきっかけだった。躓いて転んだのだ。夢なら痛くない。その望みはすぐに掻き消され、膝は擦りむけ、血が流れてずきずき痛む。
ナナは「痛てて。」といいながら躓いた場所を見た。なんか妙な違和感とメキッという音がしたからだ。
躓いた原因の者を見つけた時、ナナは絶句した。その正体は-
あろうことかそれはナナのサックスだった。慌てて楽器に駆け寄り土をほろって異常がないか確認しようとするが-。
「アレ・・・?」
いざ楽器を吹こうとするが、吹けなかった。正確に言うと吹き方が分からなかった。今までそんな事はなかった。思い出そうとしても見当もつかないのだ。
その時だった。
「グァアァ!!!」
思わず鳥肌が立つ程の唸り声だった。明らかに人のものではない。唸り声のする方向に目を凝らす。木々の間から現れたのは、熊・・・にしては異常な大きさの爪を持っていた。30㎝はある。あんなのに刺されたら一たまりもない。ナナはサックスを抱えて出せるだけのスピードで走った。熊らしき生物もナナを追いかけてくる。
日は完全沈み、足元すら確認するのがやっとだった。慎重にだが、迅速にナナは走っていた。するとナナはまたもや躓いた。ナナは二三、回転がって巨大な木々の幹の間に落ちてしまった。運よく熊らしき生物はナナに気付かず通り過ぎていった。
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