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ナナも楽器も幹の間に溜まっていた大量の葉によって大事にはいたらなかった。ナナは念の為になるべく音をたてずに幹からはい出た。汚れたジャージとTシャツを軽くほろい、頬についた泥を拭って、熊らしき生物が行った方向とは別の方向へ歩き出した。
空は昼間とは別の表情を見せていた。昼間は透き通るような青色。そして夜は溢れんばかりの星。ナナが住んでいるところでは決して見れない光景だ。
流れ星が流れたのを見て、慌ててナナはお祈りした。
-無事帰れますように。
「ッ・・・?!」
突然ナナは辺りを見回した。先程ナナを襲ってきた熊らしき生物。奴の声が遠くからした。
「まだ近くにいたんだ・・・。」
ナナはそう呟いて、足早にその場を後にした。
梟の声が聞こえ、木々は静かにその大枝を振るわせていた。ナナにとってはそれはただの恐怖でしかなかった。歩いているうちにいつの間にか大きな湖に出た。湖は恐ろしい程静かだった。波紋すらたっていない。
その湖の辺に神殿というのか、不思議な造りの建物が建っていた。世界の歴史的建造物で出てきそうな。ナナは正直その建物に入りたくはなかったが、外にいてはさっきの化け物に襲われてしまう可能性がある。ぱっと見建物自体、とても広いとは感じない。校舎並或いはそれ以下だろう。何かあったらすぐ出れそうだし。
そう自分に言い聞かせてナナは建物に入った。
中は意外と明るかった。数mおきに松明が設けられてたからだ。通路もそれほど狭くはない。一時的な雨風凌ぎになるだろう。構造も至ってシンプルだった。枝分かれはしておらず、入ってすぐ一本道の通路だった。
しばらく進むと大きな広間に出た。
「すごい・・・。」
ナナは思わずため息をした。
細かい模様が彫られた柱。何かの戦いを表したのだろう壁画。何よりすごいのは広間の中央に堂々と置かれている石版だった。人間の身長より遥かに大きいそれには文章らしきものが何十行に渡り、綴られていた。石版の前にはお供えものを置く為の皿があった。
「すごい・・・。歴史の郊外学習よ・・。」どんな状況でも明るく前向きに考えるナナだった。その明るさとプラス思考で同年代にも後輩にも慕われ、先輩にも一目置かれ、部活の中心になっているのだが。
ズズン・・・。
僅かに建物が揺れた気がした。揺れの短さから地震の確率は低いが・・・・。
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